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事件記者[報道癒着]

事件記者[報道癒着] 第4章(その1) 「狐と狸とイタチたち」

著:酒井直行/原案:島田一男



第4章 (その1)
「狐と狸とイタチたち」

 警視庁に戻るスカイラインの車内では、助手席の長谷部が、ハンドルを握る上野の方を見ずに一言、「ブンヤはどこまで嗅(か)ぎつけていた?」と質(ただ)した。
「全部です」
「全部?」
「はい。被害者と容疑者、両方とも身元を特定していました。あと、死因も」
「驚いたな。あそこがマルタイの家っていうのは、同じ記者クラブのメンバーだから知っていた可能性はあるにせよ、ガイシャの身元と死因までこの短時間で特定してくるとは……だからオレはブンヤが嫌いなんだ」
 長谷部が吐き捨てるように言った。
「でも、長谷部先輩が事件広報文に仕込んだ例のメッセージを解読した結果みたいですよ。ほら、あの、被害者の年齢を20代女性って断定して書いた……あの意味するところを、ちゃんと分かってくれたようです」
「ふん。あれは別に、ヤツラに対してのメッセージなんかじゃねえ。所轄と鑑識が特定する前からちゃんと分かっていたんだぞって、捜査一課の連中にハッキリさせかっただけだ」
 上野には、その言葉が半分は事実で半分は長谷部の強がりだと分かっていた。
 今回、被害者と容疑者の両方が警視庁桜田記者クラブのメンバーであることを上野が特定し、そのことを長谷部が現場から電話で機動捜査隊の隊長に報告した際、その事実を事件広報文には載せるなとの指示が隊長から命じられてしまっていた。
「なぜです? 機動捜査隊の使命は、初動捜査という限られた時間内で、どれだけ多くの事件解決に結びつく証拠を特定するか、です。今回、上野のおかげで、ガイシャとマルタイ、双方の身元を特定するに至ったのですから、それを公(おおやけ)にした上で捜査すれば、事件は一気に解決するのではないのですか?」長谷部は反論した。しかし電話越しの機動捜査隊隊長は、「事は、警察とマスコミとの今後の力関係にも影響してくる案件だ。単純に事実を事実だと公表していいモノではないのだよ」と一(いっ)蹴(しゅう)し、長谷部が書いて広報課へとメールする手(て)筈(はず)になっている広報文の草案にもなる実況見分調書には、被害者も容疑者も現時点では不明と書くように命じたのだった。
 だが釈然としない長谷部は一計を案じ、分かる者にだけ分かるように、被害者は既に特定できていることを暗示する書き方で調書を書いて広報課へ送ったのだった。
「大体、広報課も捜査一課の連中も、記者クラブの連中に日頃から気を遣(つか)いすぎるんだ。ブンヤ連中の顔色を窺(うかが)って事件の捜査ができるのか? ざけんじゃねえんだ」
 長谷部は一人憤(ふん)懣(まん)やるかたないといった様子で誰にぶつけるわけでもない不満を口にする。
「すみません」上野は思わず謝ってみせた。
「なぜお前が謝る?」長谷部は一瞬、キョトンとするがすぐに、「ああ、そうだったな。お前はブンヤさんに助けてもらったんだったな」と続けた。上野の田無署での一件を思い出したのだ。
「すみません」上野はもう一度謝った。「長谷部先輩は、所轄のご経験もないんでしたよね?」
「ああ。それどころかオレには刑事の経験すらない。科(か)捜(そう)研(けん)あがりのしがない分析屋だ。ブンヤに知り合いは一人もいないし、これからも作るつもりもない」
「だからですよ。付き合ってみると、案外、いろいろと協力してくれるんですよ、事件記者さんたちっていうのは」
「それが癒着っていうんだ」
 長谷部は舌打ちしながら言い捨てる。
 上野は小さくため息をつきながらも、隣の席で尚も不満気な様子の長谷部を少しかわいくさえ思っていた。
 長谷部先輩はやっぱり噂通りの人なんだな、と心で呟きながら。
 長谷部の噂は、機動捜査隊に入隊してすぐ、機捜仲間や上司たちから散々聞かされてきた。
 曰(いわ)く、機捜イチの堅(かた)物(ぶつ)でクソ真(ま)面(じ)目(め)。
 曰く、抜群の鑑識能力と実況見分能力を持った天才分析屋。
 曰く、何度も捜査一課刑事への昇進推薦を受けながらも、断固として固(こ)辞(じ)し続けているバカなヤツだと。
 通常、機動捜査隊員は、所轄刑事の中から手柄を立てた若手刑事が抜(ばっ)擢(てき)されて配属される。更に、機動捜査隊で優秀な実績を修めた者だけが、日本一優秀な刑事たちが集まるとされる捜査一課の刑事へとランクアップしていくのだが、そもそも長谷部は、東京大学理I類卒業後、警視庁科学捜査研究所へ分析官として入所した異色な経歴を持つ男である。
 科捜研では彼は主に、鑑識官が殺人現場で採取した物的証拠を微(び)に入り細(さい)に入り分析し、犯人の手がかりを特定する花型部署に配属されていたのだが、とにかく長谷部の分析した物的証拠に対する分析結果報告書の出来が半(はん)端(ぱ)ないほど的確であり、何より、他の分析官が通常丸一日はかかる分析報告書のまとめをわずか2時間足らずで仕上げるのを常としたことから、当時の機動捜査隊の隊長が、その類(たぐい)まれなる分析能力とその処理速度の速さを初動捜査に活用するべきと、三(さん)顧(こ)の礼を尽くして機動捜査隊へと異動させたのだった。
「東京日報だっけ、さっきのブンヤ?」
 助手席の窓の外をぼんやり眺めながら長谷部がいきなり話しかけてきた。
「あ、はい。そうです。東京日報です」
「ヤツラ、今日の夕刊に、さっきのネタ、記事にするんだろうな」
「そりゃあそうでしょう。今の時点ではおそらく、被害者と容疑者双方の身柄特定ができているのは東京日報だけのはずです。特ダネスクープってヤツです」
「特ダネ欲しさに仲間を売る、か……やっぱり軽(けい)蔑(べつ)すべき連中だな。事件記者っていうヤツラは」
「え? 長谷部先輩、それって、どういう意味ですか?」
 上野が驚いて長谷部の顔を見た。
「バカ。前向いて運転しろ」
 長谷部がこっちを向いた上野を叱り飛ばした。

 相沢と山崎は現場取材を終え、記者クラブへと戻ってきた。
 入ってすぐの共有スペースにある大きなソファーに八田が座っている。そのはす向かいには、新日タイムスの熊田キャップが座っている。熊田は心なしかイライラしているように見えた。
「帰りましたよ」と言いつつ相沢は八田に目配せする。八田は黒縁メガネの奥の視線を少しだけ横にズラし、「お帰りさん。じゃあ、ちょっくら報告を聞こうか」と東京日報のブースに戻ろうと立ち上がりかけるが、
「東京日報さんは今回のヤマ、独り占めにする気ですかな?」
 八田の動きを制するかのように、熊田がボソッと口を開いた。
 八田と相沢が顔を見合わす。八田が小さく肩をすくめる。
「独り占めとはどういうことですかね?」相沢が普段の笑顔を浮かべながらソファーに座る。
 仕方なく八田も元いた場所に戻る。結局、山崎だけが、「原稿、まとめますね」と一人、東京日報ブースへと入っていった。
「決まってるじゃないですか。神保町で起きた殺人事件です。ウチのアラさんとセイカイどんの話じゃあ、東京日報さんは機捜の初動捜査の段階から現場取材をしていたそうじゃないですか」
 熊田の元には、現場で取材している青海記者と荒木記者から逐一情報が流れてきていた。その中で青海と荒木から、「東京日報の動きが変です。早すぎる」と報告していたのだ。
「たまたま、現場近くにいたもんですから。たまたまですよ」
 相沢が今日既に何度目かになるフレーズを口にする。と同時に、相沢は熊田の素振りにそれとなく注視する。新日タイムスが、今回のネタをどこまで掴んでいるのか探る必要があった。
「でもまあ、捜査一課はもちろんのこと、所轄も鑑識も、口の固いこと固いこと。彼らからの収穫はゼロでしたわ」
 相沢はボヤいてみせた。決してウソはついてはいない。山崎に機捜のスカイラインを追わせていた最中、相沢は相沢で、ほんのわずかな時間ではあったが、現場に集結した顔馴染みの捜査一課刑事、所轄刑事、鑑識官たちに取材を試みたのだ。だが彼らは皆、揃いも揃って、箝(かん)口(こう)令(れい)が敷かれているかのごとく口を固く閉ざし、一切、取材ができなかったのだ。
「ええ。ウチのアラさんからも聞いています。何を聞いても、ノーコメント、オレたちはアンタら事件記者には何も言えない、広報を通してくれの一点張りで、まるで我々記者クラブの連中を目の敵(かたき)にしているような素振りだったようですな」
「その通りです」相沢は相槌を打った。相沢が受けた仕打ちと全く同じだった。やはり、上からそう言えと命じられていたようだ。
「東京日報さんはどうお考えか?」
 熊田がズイッと身を乗り出し、相沢に詰め寄る。
「どう、と言いますと?」
 相沢は心の中で身構える。新日タイムスが、容疑者がガンさんであると、どこまで確信しているのかを見極めたかった。もっとも、会話のキャッチボールを少しでもミスると、反対に自分たちの手の内まで明かすことになる。ここは慎重にトークをしなければならなかった。
「直接、ムラチョウにでもぶつけてみるつもりですか? 東京日報単独で?」
 熊田が相沢を真(ま)っ直(す)ぐに見つめながら尋ねてきた。
「ムラチョウに、何を、でしょうか?」相沢は、ひとまずトボケてみることにした。それにしても、ウチ単独で、という言い回しが気になった。
「決まってるじゃないですか。今回の、警察サイドの我々記者クラブをないがしろにする態度の真意ですよ……おそらくは、被害者か容疑者のどちらかが、政治家や政府要人の関係者か家族なんでしょうけどねえ、今は必死に隠しても、どうせ明日か明後日になれば全部分かっちゃうというのに、こうやって我々マスコミを遠ざけようとするその姿勢が気に入らない……とにかく、ウチとしては個別にクレームをつけるより、記者クラブに所属する全新聞社が一致団結して抗議に行った方が効果があると思うんですがね」
 熊田のコメカミに血管が浮き出ているのが見えた。
「抗議……ですか? それはどうかなあ」
 相沢が思わず頭に手をやった。
 ヤレヤレ。新日タイムスは容疑者がガンさんだと知らない様子だ。
 ホッとするのと同時に相沢は思った。こりゃあマズイな、と。
 熊田が誤解したまま怒りに任せ、挙句に他の社も巻き込んで広報課や捜査一課にクレームに行ってしまうと、ただでさえ今回、容疑者と被害者の両方が記者クラブの人間ということで警察側が神経質になっているのに、今以上に彼らは頑(かたく)なになり、情報をシャットアウトすることだろう。それだけはなんとしても避けなければならない。
「本当に政治家か政府要人の関係者なんでしょうかねぇ。それってクマさんの憶測の域を出ていないんじゃないすかねぇ」
 相沢は、熊田の暴走を食い止めるべく、それとなく彼の間違いを正す方向に持って行こうとする。しかし熊田の間違った思い込みによる怒りは止まらない。彼は義(ぎ)憤(ふん)に駆(か)られているのだ。
「いやいや、絶対に、容疑者か被害者サイドからの政治的圧力があったはずなんです。そうでなきゃ、記者クラブに情報を落とさない理由が分からない。そうに決まってる!」
 熊田が自らの仮説が真実以外のナニモノでもないと信じ切っているかのごとく強く頷いた。
 さて、どうしたものかと、相沢は思案していた。隣に座っている八田の方をふと見ると、彼は目を閉じ、眠ったフリをしている。ご判断はキャップにお任せしますという八田ならではの意思表示だった。
 相沢が熊田の対応に苦(く)慮(りょ)していたその時だ。記者クラブのドアが静かに開き、中央日日の浦瀬キャップが幽霊のごとく弱々しく入ってくる。
「ウラさん?」
 浦瀬は入ってくるなり、ふらふらとおぼつかない足取りで応接セットの方へと近づいてきたかと思うと、ソファーの空いた席、つまり、相沢の隣の席に倒れ込むように体を沈める。そしてそのまま天を仰ぐと両手で顔を覆った。
「おいおい、どうしたウラさん? まるで大誤報でもやらかしたような顔つきじゃねえか」
 何も知らない熊田が、浦瀬のあまりに意気消沈した態度に茶々を入れる。だが相沢も八田も、事情を知っているだけに声を掛けることを躊躇(ためら)っていた。
「あ、そうか。今週の幹事社は中央日日だったっけ。ははーん、だから、ウラさん、ムラチョウに一人呼ばれて、今回のマスコミ対応について、激しくやり合ってくれてたってワケだな。だがその様子じゃあ、警察トップは一向に聞く耳持たぬってカンジかい? 同情します」
 熊田が持論を発展させた上で、勝手に浦瀬の身の上を哀れんでいる。
「同情? へん、同情なんて言葉だけで片付けられるものかっ」
 浦瀬がボヤキとも捨て台詞(ぜりふ)ともとれる言葉を吐いた。そして顔を覆っていた手を下ろし、周囲にいる相沢、八田、熊田を見回した。
 そんな浦瀬に、熊田が興味津(しん)々(しん)に尋ねる。
「で、圧力っていうのは、政治家からなのかい? それとも政府要人? まさか警察上層部の関係者が事件当事者だったりはしないよな?」
 浦瀬はその質問を無視すると、一向に口を開こうとはしない相沢と八田の顔を見比べた。目と目が合った。相沢は浦瀬の視線を真っ直ぐに受け止めた。
「どうやら、ネタを嗅ぎつけたのは現時点では東京日報さんだけの様子だな」
 相沢と八田が小さく頷いてみせた。
 浦瀬の心中を察すると、どんな台詞も言葉足らずになってしまいそうで、迂(う)闊(かつ)に口を開くことすら戸惑ってしまう。とはいえ、どうしても浦瀬に聞かなければならないことがあった。ただし、その質問を発する以上、夕刊にぶち込む予定だった特ダネを捨てることを意味していた。
「ガンさんの身柄は?」相沢があえて感情を殺した口調で質問する。
「ついさっき確保されたよ。二日酔いで出勤してきたところ、待ち構えていたムラチョウにとっ捕まったみたいだ」浦瀬が答える。
「当然、容疑は?」
「ああ。否認している。ま、コロシを仕(し)出(で)かした人間がノコノコ警視庁に出勤はしないわな」
「つまりウラさんも、ガンさんは……」
「当たり前だ! ガンに人殺しなんかできるわけねえじゃねえかっ!」
 浦瀬の強い口調に、相沢と八田も大きく頷き賛同する。
「え!? ええええ!? ガンさんがコロシ!? な、なんだそれ!?」
 相沢と浦瀬との会話の流れからようやくコトの真相に気づいた熊田が素(す)っ頓(とん)狂(きょう)な声を上げながら思わず席を立つ。
 そのタイミングで、記者クラブのドアが勢いよく開き、毎朝新聞の鶴岡キャップが血相を変えて飛び込んできた。
「大変だ大変だ。中央日日のガンさんが……」
 どうやら彼も、現場取材の中で容疑者がガンさんであることを掴んだようだ。
 少し遅れて新日タイムスの荒木が汗を拭き拭き入ってくる。鶴岡とは対照的に彼の取材は空振りだったらしい。がっかりした表情を見せるだけで驚いた雰囲気はまるでない。
 荒木は、ソファーに憮然と座り込む熊田キャップに手招きされ、耳打ちをされる。
「そんなバカなっ! ガンさんに限って、そんなことがあるはずない!」
 荒木が愕(がく)然(ぜん)となって叫ぶが、他の連中は既にその驚きを体験済みであるせいか、それとも、ガンさん逮捕という衝撃にどうリアクションを取ればいいのか分からないからか、荒木の反応を見事にスルーする。
「最後に入ってきたアラさんも情報を共有ができたところで、ちょっといいですかねぇ」
 相沢がおもむろに立ち上がる。そして、応接セットに集まる各新聞社の事件記者たちの一人ひとりの顔を見回すと、「取材で出ている者を除いたら、一応、各社、勢揃いしたようですね」と念の為の確認を取った。
「毎夕さんはいつものごとく、お留守ですがね」熊田がボソッと答える。
 相沢は、熊田のその言葉が発せられた際の、一同の顔に注視していた。
 岩見の上司である中央日日の浦瀬キャップが一瞬、ビクンと体を硬直させたが、それ以外の誰も、表情に変化を見せなかった。つまりは、浦瀬だけ、捜査一課の事情聴取で、被害者が毎夕新聞の桜井春乃だと聞かされているのは当然として、他の連中は未だ被害者の身元を割り出せていないことがこれで確認できた。
 八田が、東京日報ブースで執筆作業をしていた山崎をソファーのところまで来るように指示する。共有スペースでのやり取りに聞き耳を立てていた山崎はすぐに従い、キャスター付きの椅(い)子(す)を引っ張りながら応接セットの手前に陣取った。
 これで、毎夕新聞を除く記者クラブにいる全事件記者が勢揃いしたことになる。東京日報は、相沢キャップ、山崎、八田の3人。新日タイムスは熊田キャップと荒木。毎朝新聞は鶴岡キャップ。そして中央日日は浦瀬キャップというメンバーである。ちなみに、東京日報の新人の伊那と、新日タイムスの青海、毎朝新聞の亀田は、神保町の現場に残って取材を続けている。(伊那は、ただただ、殺害現場である岩見のマンションの通路に向かってカメラを構えているだけの退屈な取材ではあるが)
「各社揃ったところで一つ提案があります。今回は特別です。特ダネもスクープも関係ありません。同じ警視庁桜田記者クラブの仲間である岩見記者を助けるために、情報を出し合い、共有して、全社、力を合わせて協力することにしませんか?」
 相沢は、神保町の現場から帰る道すがら、ずっと考えていたことを口にする。
「キャップ……それは……」
 山崎が思わず口を開きかける。
「いいんだ。ヤマさん、いいんだ。これでいいんだ」相沢が山崎が言わんとすることを先回りして理解し、何度も何度も『いいんだ』と繰り返す。
「我が社の記者が殺人事件の容疑者として逮捕されたなんていう前代未(み)聞(もん)の出来事の中、間違いなく、我が社はロクな取材ができるとは到底思えません。警察からの情報も、容疑者の会社には一切流せないと、今以上にシャットアウトされるでしょうし、現場周辺の取材だって、容疑者の会社に好きこのんでネタを提供してくれる一般市民がいるとは全く思えません……ウチとしては願ってもないことです」
 浦瀬も立ち上がり、隣の相沢に深く頭を下げる。
「他の社のみんなはどうかね?」
 相沢の問いかけに、熊田と鶴岡が顔を見合わせる。
「そりゃあ、現時点で、おそらく一番ネタを掴んでいるのは東京日報さんだろうし、相さんがイイって言うんなら、ウチらとしては異論があるわけはないわな」
 熊田の言葉に鶴岡も賛意を示す。
「決まったね。じゃあ、そういうことだから。これから言う事は冗談でもなんでもない事実です。驚かないで聞いてほしいという方が難しいかもしれないけど、今回の殺人事件、容疑者として中央日日のガンさんが逮捕されたことだけでも衝撃なんですが、実は、殺された被害者っていうのも、私たちの仲間、桜田記者クラブのメンバーなんです」
「なんだって!?」
 誰かが叫んだ。もはや誰の叫び声だったかを特定する意味がないほど、一瞬にして室内の空気が冷たく激変した。

《つづく》

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