ショートショート小説『都合のいい召使い星人』
突然、数百隻の宇宙船が地球の各地に飛来する。宇宙船から出てきたのは、物腰の柔らかい全身ピンク色をした身長1メートルほどの宇宙人だった。彼らはテレパシーのようなモノで、直接、地球人に懇願する。
「お願いがあります。私たちをこの星で人間様の召使いとして働かせていただけないでしょうか? お給金はいりません。私たちは他の惑星の生命体のために働かせていただけるだけで幸せなのです。食べ物もいりません。この星の窒素が我々の栄養素ですので、それを少しだけ分けてください」
人手不足に困っていた各国は、宇宙人を召使いとして雇い入れることにした。
「召使い星人」と称された彼らは、地球人にとって実に都合のいい存在だった。まず食べ物がいらない、給料もいらない、人間に命じられることを喜んだ。人間に逆らうことはなかった。そして、彼らの生体組織の構造上、彼らと地球人との間に子供が生まれることもない。このことも、世界各国の指導者たちにとっては好都合だった。
召使い星人が初めて地球に降り立って10年。すでに人間にとって、召使い星人が必要不可欠な存在になっていた。その頃になると、動物愛護団体や人権団体が音頭を取って、彼らにも人間同様の人権や選挙権・被選挙権を与えるべき、と世界各国で裁判を始める。
しかし当の召使い星人は「滅相もございません。我々は召使いです。人間様とは違います。人権も選挙権も必要ありません」といつもより更に頭を低くした。とはいえ、裁判は裁判として審議され、数年に渡る審判の結果、地球上の全ての国で、召使い星人に、人間同様の人権と選挙権・被選挙権が与えられることになった。
だが彼らがそれを行使することは一度もなかった。
そんなこんなで召使い星人がやってきて50年が経過した頃には、彼らの人口は、人間とほぼ同数にまで増えていった。でも人間たちは、それを嫌うことなく、ありがたがった。
各国の召使い星人たちが、それぞれの国で、人間たちより人口が多くなったのを見計らったタイミングで、それまで一度も行使したことのなかった選挙権と被選挙権を突然行使すると言い出した。これまで一度も逆らったことのなかった彼らの意外な申し出に対し、人間たちは「どうぞどうぞ」と歓迎する。
各国の召使い星人たちが一斉に、ありとあらゆる地方選挙、そして国政選挙に立候補する。多数決という数の論理を武器に、立候補した召使い星人たちは全ての選挙で当選を勝ち取った。召使い星人が立ち上げた支持政党は、世界全ての国で与党となり、この時とばかりに、彼らは「地球統一連合」を提唱、ついに全世界が一つになった。もちろん史上初の世界大統領に選ばれたのは、召使い星人である。
こうして、地球は、瞬く間に召使い星人に占領されてしまった。
「どうしてだ! どうして今更、反逆するのだ!」失脚させられた地球の政治家が、召使い星人たちに疑念をぶつけた。
「我々はこの手法で、これまで100以上の知的生命体が支配する惑星を占領してきました」世界大統領に就任したばかりの召使い星人がうそぶいた。
「くそったれ。飼い犬に手を嚙まれる、庇を貸して母屋を取られるとはこのことだな」地球人政治家のぼやきに世界大統領は反論する。
「我々は、あなた方を飼い主と思ったこともないし、庇を貸してもらったとも思っていません。勘違いも甚だしいとはこのことです」
この時はじめて地球人は思い知る。都合がいいのは、彼らではなく、自分たちだったのだと。
*****************************
酒井直行
愛媛県出身。脚本家(日本脚本家連盟員)、小説家、漫画原作者。
代表作に、ドラマ「嫌われ監察官 音無一六」「医療捜査官 財前一二三」「京都金沢殺人事件シリーズ」、
特撮ドラマ「忍風戦隊ハリケンジャー」、アニメ「ドラえもん」、漫画「裁いてみましょ。」「Pハート」、ゲーム「ゼルダの伝説 ふしぎの木の実」「鬼武者」など。
新波出版では、Amazonkindleにて
Amazon「事件記者〈報道癒着〉」Amazon「死への目撃者」を刊行。
※これからも不定期で、酒井直行作の「ショートショート小説」を発表していきます。お楽しみに!