ショートショート小説『ドッペルゲンガー』
仕事帰りの途中、私は、自宅近くの路地裏の公園で、自分と瓜二つの女性を目撃する。
公園のベンチに座っている女性は、服装こそ違えども、私と全く同じ顔立ちをしていた。
「まさか、ドッペルゲンガー?」私がそうつぶやいた瞬間、女性は蜃気楼のように消えていった。
ドッペルゲンガーに会うと死が近いと誰かが言っていた。確か、芥川龍之介も死ぬ数ヶ月前にドッペルゲンガーと遭遇した話を作家仲間との座談会で話してすぐ死んじゃったんだっけ。
ドッペルゲンガーに出会った前後から私の体調は絶不調になっていく。やっぱり、ドッペルゲンガーに出会うと死期が迫るっていうのは本当なんだ、と思うと、ますます瘦せ衰える。周囲がさすがに私の身を案じ、病院に行け行けと勧めるが、元来、私は大の病院嫌い。どうせ今更病院に行ったところで死を免れることはできないのだ。
そんな中、私の前にまたドッペルゲンガーが現れた。今度は会社の前で待ち伏せしていた。目の前の私が『死神』に見えた私は思わず悲鳴を上げ、その場に倒れ込んだ。
目を覚ましたとき、そこは病院のベッドの上だった。気絶した私を会社の同僚が見つけ、救急車で搬送されたのだ。
「私、もうすぐ死ぬんですよね」診察をした医師に私は開口一番質問する。
「このまま手当をしなければ、いずれは」医師は正直に答えた。
「やっぱり・・・ドッペルゲンガーに会ってしまったら、死が近いというのは本当だったのね」
「変な妄想に取り憑かれているようですね。このまま手当をしなければ、の話です。すぐ手術すれば大丈夫」
精密検査で、とある部位に悪性腫瘍が見つかったのだという。進行性の早い腫瘍ではあるものの、今、手術すれば完治できるタイプのガンだと医者は私を安心させた。
手術当日、全身麻酔で眠りにつく私は夢を見る。夢の中で、あのドッペルゲンガー、つまりもう一人の私が笑顔で話しかけてきた。
「マッタク・・・あなたというか私の病院嫌いも相当なものね。でも思い出してみると、昔の私もそうだったわ。最初の公園でドッペルゲンガー、つまり未来の自分に会った時、ドッペルゲンガーに出会えば死期が近いと思い込んでしまって、病院にも行かずに逆に自暴自棄になって、余計死期を早める結果になっちゃったんだもんね」
「あなたは、未来の私?」
「その通り。でも私は、未来の自分の忠告を無視したせいで死んじゃったわ。だから、今度こそは、あなたを助けてみせると頑張ったの」
彼女は未来の自分だった。今から半年後、進行性ガンで危篤となり、意識混濁のさなか、過去の自分に病院に行くように仕向けるために意識のみが過去へと舞い戻った姿だったのだ。
「私は死んじゃうけど、あなたはもう大丈夫ね。私の分まで長生きしてよ。ちゃんと定期的に病院に行くんだぞ」
そう告げてドッペルゲンガーの私は消えていった。
それから60年。私はもう一人の私の言いつけを守り続け、生きている。
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酒井直行
愛媛県出身。脚本家(日本脚本家連盟員)、小説家、漫画原作者。
代表作に、ドラマ「嫌われ監察官 音無一六」「医療捜査官 財前一二三」「京都金沢殺人事件シリーズ」、
特撮ドラマ「忍風戦隊ハリケンジャー」、アニメ「ドラえもん」、漫画「裁いてみましょ。」「Pハート」、ゲーム「ゼルダの伝説 ふしぎの木の実」「鬼武者」など。
新波出版では、Amazonkindleにて
Amazon「事件記者〈報道癒着〉」Amazon「死への目撃者」を刊行。
※これからも不定期で、酒井直行作の「ショートショート小説」を発表していきます。お楽しみに!