ショートショート小説『親友の裏切り』
トモカズとケンは親友だった。高校で知り合った2人は同じ大学に進み、3年の時にITベンチャー企業Sを立ち上げた。形の上では、営業担当のトモカズが社長、システム開発担当のケンが専務だったが、2人は常に対等で、常に話し合って会社を大きくしていった。
社員が100人を超え、株式の公開を視野に入れて、更なるステップアップを進んでいたその時、事件が起きた。トモカズの直属の部下で取締役だったAがS社の未公開株を安く譲り渡すと話し、複数の投資家から数億円の金を騙し取ろうとしたのだ。事件そのものは未遂に終わったが、ケンは、社長であるトモカズの責任を強く追求した。トモカズは部下であるAの犯罪行為に対し責任を痛感し、代表権をケンに渡し、取締役からも外れ、評価額より安い価格で持ち株全てをケンに譲った上でS社から完全に去っていった。
3ヶ月後、ケンはS社を大手IT企業М社に100億円で譲渡する。トモカズは寝耳に水だった。その後、Aの犯罪行為も、実はトモカズを追い出すために裏でケンが仕組んでいたことを知る。トモカズはケンに裏切られた事実に愕然とし、怒りと悲しみが彼を襲った。
人間不信になり、自堕落な生活をしていたトモカズは身体を壊し、数年後、入院してしまう。
トモカズの病室にケンがやってきた。彼は、見舞いと称しあるものをトモカズに手渡す。それは一冊の預金通帳。残高はなんと200億円。
驚くトモカズに、ケンは数年前の真実を明らかにする。
次々と魅力あるシステムを開発していたケンだったが、ある時、部下の作ったシステムの中に、大手IT企業М社の持つ特許を侵害している箇所があることに気付いた。特許侵害で訴えられれば高額の損害賠償を要求される可能性がある。ケンはトモカズにその事実を伝え、対策を練ろうとする直前、М社の方からケンに対し、内密に買収の話を切り出した。以前からМ社はケンの技術力を高く評価し、密かにケン達S社のシステム開発部門の引き抜きを画策していた。そのさなか、S社のシステムが、自社の特許に抵触している可能性を知ったМ社は、ケン達を引き抜くのではなく、S社を会社ごと買収すれば、特許侵害問題はクリアになることをエサに、ケンに会社譲渡を持ちかけた。ただし買収には条件があって、買収するのはケンが統括するシステム開発部門のみであり、それ以外の部門の閉鎖と、買収後に目の上のタンコブになる可能性のあるトモカズの会社追放を要求してきた。その上で、ケンとトモカズが仲違いするように、未公開株譲渡のニセ情報をでっち上げたり、ケンがトモカズに相談できないよう、数々の妨害工作を行った。
「どうして、そんな策略に乗ったんだ? 俺たちは親友じゃなかったのか?」
「親友だからこそ、奴らの悪どい計画に乗ったふりをしたんだ」「どういうことだ?」
「また2人で一緒にやりたいからに決まってるだろう! 特許侵害を解決するには買収されるのがベストだった。だが奴らは、強いリーダーシップのお前が獅子身中の虫となることを恐れていた」ケンはそこまで言い終わると満面の笑みでトモカズに向き直った。「買収で得たお金を数年間投資運用して200億に増やすことができたんだ。ちょうどいいタイミングだと、俺もシステム開発部門全員も、М社に辞表を叩きつけてやったよ」
ケンはトモカズの手を強く握った。トモカズもまたケンの手を握り返した。二度とその手を離さないと誓いながら。
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酒井直行
愛媛県出身。脚本家(日本脚本家連盟員)、小説家、漫画原作者。
代表作に、ドラマ「嫌われ監察官 音無一六」「医療捜査官 財前一二三」「京都金沢殺人事件シリーズ」、
特撮ドラマ「忍風戦隊ハリケンジャー」、アニメ「ドラえもん」、漫画「裁いてみましょ。」「Pハート」、ゲーム「ゼルダの伝説 ふしぎの木の実」「鬼武者」など。
新波出版では、Amazonkindleにて
Amazon「事件記者〈報道癒着〉」Amazon「死への目撃者」を刊行。
※これからも不定期で、酒井直行作の「ショートショート小説」を発表していきます。お楽しみに!