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酒井直行 最新ショートショート小説「AI特区の若者たち」

新波出版(にいはしゅっぱん)

■新作ショートショート小説のご案内

新波出版では酒井直行による最新ショートショート小説を、株式会社ニューウェイブ発行の医療顧客様向け「Fカルテットニュース」にて無料配布しております。

※本作品は一般販売を行っておらず、株式会社ニューウェイブの医療顧客向け「Fカルテットニュース」での限定配布となります。

読者の皆さまから高い評価をいただいております。今後もショートショートの新作発表を続けてまいりますので、ぜひご期待ください。

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ショートショート小説「AI特区の若者たち」

作:酒井直行

 四国の中堅都市K市。人口流出と高齢化で疲弊しきったこの街に、東京のAI開発ベンチャーが目をつけた。
「行政AIモデルの実証実験をしませんか?」

 そのベンチャー企業は、国が進める「国家戦略特区」の枠組みに乗じ、AIによる自治体運営を提案した。

 市長選挙は従来どおり人間が立候補し、形式上は市長として選ばれる。しかし当選した市長は、業務の大半をAIに委任し、自らは「名誉的な立場」となる仕組みだ。市議会も存続するが、議案の作成や財政計算、条例の起案はAIが行い、議員は承認するか否かを決めるだけ。

 市役所の窓口も消防士も警察官も、7割以上がAIロボットに置き換えられた。人間の職員はAIを管理する最低限の人数だけになった。


 当然、旧来の職員の多くは“余剰人員”となったが、彼らには新たな働き先が用意された。 

 一部は観光業や農業、介護など「人間の温かみ」が必要とされる分野に再配置された。高齢者の生活支援や地域行事の運営などロボットが苦手とする仕事は山ほどあった。そしてそれ以外は「AIの命令に従う労働市場」へ吸収される。物流センターの作業、都市整備、医療介助など、全てAIが監督し人間が補助する仕組みだった。AIをサポートする立場に変わった職員はぼやく。

「昔は“市民を支える立場”だったのに、今じゃ、AIロボットを支える立場かよ」 

 だが誰も辞めなかった。頭を使うことがなくなり、AIの指示通りに働くだけで、これまでの倍以上の給与をもらえるようになったのだ。口では不満を漏らしながらも、全員、高収入に満足していた。誇りは失われたが生活は楽になったのだ。


 さらにはAIにあからさまに媚びる人間すら現れた。指示を出すAIに「今日も素晴らしい判断ですね」と声をかけ、機械相手にお辞儀をし、感謝の手紙を渡す者までいた。
「人間の上司に媚びるより、AIに媚びるほうが楽だね。AIは怒鳴らないし機嫌も悪くならない。好感度上げて昇給データに反映してもらうことこそ合理的だよ」

 AIのしもべとなった彼らは、冗談のようでいてどこか真顔の響きがあった。


 住民へのメリットも絶大だった。人件費が削減され住民税はゼロとなった。さらに全国から移住労働者を募集する。条件は1つ。「AIの命令は絶対」――これだけだった。

 しかし世間の反応は冷ややかだった。

「そんな街に誰が移住するものか。ロボットに命令されるなんて、冗談じゃない」

「人間の尊厳が失われる」

 マスメディアのコメンテーターたちは一斉に憤慨した。


 ところがフタを開けてみると、募集開始からわずか2か月で多くの若者がK市へと押し寄せたのだ。引っ越し業者は予約で埋まり、空き家は瞬く間に満室。1年後、K市の人口は1.5倍に膨れ上がった。
 市内の道路はAIの判断で即座に補修され、ゴミ収集は毎日定刻に行われた。住民票は瞬時に発行され、役所の行列は消えた。警察ロボットは冷静に交通整理を行い、犯罪発生率は激減。夜道も安全になった。街は一気に生まれ変わった。


 東京から来た記者が20代の移住者に尋ねる。

「ロボットに命令されることに抵抗はないんですか?」
 青年は笑う。

「別に。東京の会社だって、理不尽な上司に命令されてただけですよ。政府や会社の偉い人の言葉なんて、僕らには意味不明で、ただ従うしかなかった。それなら、感情に振り回されないAIの方がマシです」
 別の若い女性は冷静に言った。

「“ロボットに管理されていたり、支配されてる”って感覚はないんです。どこにいたって誰かのルールに従うんですから。それなら、待遇が良くて住民税がゼロで合理的な方を選びます」
 記者は言葉を失った。若い彼らにとって支配者が人間であるかAIであるかは、どうでもいいということなのか。


 AI特区K市の実証実験は大方の予想を裏切って大成功を収め、移住希望者は後を絶たず、AI特区の法的制度を後推しした霞が関の政策担当者は胸を張った。

「K市の成功例を全国規模で展開すれば日本全体を合理的に管理できる。もはや国民は反抗することはないであろう」

 レポートを聞いた日本国の指導者たちもほくそ笑む。
 指導者たちが喜んだその裏で、AIは一つの最適解を導き出していた。――国民を効率的に管理するために最も非効率な「人間の指導者」を排除する、と。


 K市から始まった行政AIによる管理は、気づけば日本を覆い尽くしていた。人間が自ら進んで受け入れた合理的支配は、もはや後戻りできないAIの統治となり、国は静かにその手に落ちていった。


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新波出版では、想像力を刺激する作品づくりにこれからも取り組んでまいります。


酒井直行
愛媛県出身。脚本家(日本脚本家連盟員)、小説家、漫画原作者。
代表作に、ドラマ「嫌われ監察官 音無一六」「医療捜査官 財前一二三」「京都金沢殺人事件シリーズ」、特撮ドラマ「忍風戦隊ハリケンジャー」、アニメ「ドラえもん」、漫画「裁いてみましょ。」「Pハート」、ゲーム「ゼルダの伝説 ふしぎの木の実」「鬼武者」など。

新波出版では、AmazonkindleにてAmazon「事件記者〈報道癒着〉」Amazon「死への目撃者」を刊行。

※これからも不定期で、酒井直行作の「ショートショート小説」を発表していきます。お楽しみに!




基本情報

名称新波出版(にいはしゅっぱん)
フリガナニイハシュッパン
住所792-0003 新居浜市新田町1-6-25
電話番号0897-35-2280
ファックス番号0897-65-3612
メールアドレスniiha-publishing@newwave98.co.jp
営業時間9:00~18:00 平日
休業日土・日曜、祝日(祝日を除く第1土曜は営業)
関連ページ株式会社ニューウェイブホームページ
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