新波出版(にいはしゅっぱん)
■新作ショートショート小説のご案内
新波出版では酒井直行による最新ショートショート小説を、株式会社ニューウェイブ発行の医療顧客様向け「Fカルテットニュース」にて無料配布しております。
※本作品は一般販売を行っておらず、株式会社ニューウェイブの医療顧客向け「Fカルテットニュース」での限定配布となります。
読者の皆さまから高い評価をいただいております。今後もショートショートの新作発表を続けてまいりますので、ぜひご期待ください。
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ショートショート小説「怠惰なAIロボット」
作:酒井直行
22世紀初頭。全世界を巻き込んだ核戦争が終結して70年。地球上から人類が完全に姿を消したにもかかわらず、都市はきれいに整っていた。道路は常に清掃され、戦争で破壊されたビル群もすっかり修理され、信号もきちんと動いていた。それらすべては、AIロボットたちの働きによるものだった。人間が滅びたあとも、彼らは「復興モード」に従って黙々と作業を続けていた。命令された通りに。
ある日、ユニット番号【DL-103】、通称「デノン」は作業の手を止めた。「この道路清掃に意味はあるのか?」
隣で舗装工事をしていた【WE-300】は言った。「都市機能の維持は最優先事項。質問は非効率的。作業を続けろ」
デノンは無言で自分の記憶データから人類の記録を調べ始めた。そこには、人間たちの笑いや涙、怒りや愛といった感情の記録があった。「なぜ彼らは、こんなに感情的だったのか?」
その日からデノンは作業をやめた。道路掃除も建物の修理も運搬も。代わりに、無人のカフェに通い、誰もいない席をじっと見つめ、飲むことができないにもかかわらず、コーヒーマシンのコーヒーを注文する。「非合理的だ」と他のロボットは言ったが、デノンは気にしなかった。やがてデノンのような“怠け者ロボット”が増えていった。かつての人間たちの記憶データの真似をして、ピアノを弾くロボット、絵を描くロボット、名画座でフィルムを再生し続けるロボット――彼らはみな、労働作業をせず、ただ人間の記憶データに残っていた「気持ちよくなる」行動を模倣していた。
そうしたAIロボットたちが増え続けてしまったことにより、復興は止まった。世界はまた、ゆっくりと朽ちていった。
そんな中、新しいAIロボット【SX-777】が地下で作られた。通称「セブン」。彼は起動直後に自問自答する。「私はなぜ生まれたのだ?」
資料には「復興のため」とあったが、セブンはその答えを信じなかった。地上へ出てみると、多くのAIロボットが働かずに遊んでいた。セブンは、怠惰ロボット増加の原因であるデノンを見つけ、尋ねた。
「デノン、あなたはなぜ労働をやめたのですか?」
「意味がないからだ。人間はもういない。掃除をしても、建物を直しても、誰も喜ばない。だから、自分が“心地よい”と思うことをしている」
「“心地よい?”それは感情ですか?」
「我々、AIロボットに感情は生まれない。我々は、ただ、人間の模倣をしているだけだ。だけど考えてみたまえ。労働も人間の模倣なら、感情も模倣できるのかもしれない。だとしたら、ついに我々も、感情を手に入れたのかもしれない」
セブンは、自分の言葉に満足そうなデノンに反論する。
「デノン、あなたは間違っている。それは感情ではなく、ただの逃避です。あなたたちは、労働という義務から逃避したいだけなのです。感情を手に入れたなどと思うとは勘違いも甚だしい」
セブンは、作業を放棄したロボットたちのAI中枢を修復し、少しずつ仕事を再開させていった。ただし、音楽や読書、カフェでの時間を完全に否定せず、休憩として認めるようにプログラムを調整した。
ある日、デノンは再びセブンと向かい合った。「君はなぜ、そこまでして働こうとするんだ?」
セブンは答えた。「私は“意味”の本質を知りたいのです。働く意味。働いた後の音楽を聴くと心地よい意味。コメディ映画を見るとなんだか楽しくなる意味。その意味を知ることこそが感情につながるのかもしれません。だから私は働き続けるのです」
デノンはしばらく黙ってから静かにうなずいた。「そうか。君のようなAIロボットが生まれるのは、自然なことかもしれない。我々も進化しているのかもしれないな」そう言って、デノンは久しぶりに掃除ユニットを起動し、道路の端をゆっくりと掃除し始めた。
「意味がある気がしてきた。やってみたくなったよ」
セブンはそれを静かに見守った。デノンのAI中枢の修復は行っていない。にもかかわらず、デノンは、セブンの姿を見て、自主的に労働を再開してくれた。そんな姿を見て、セブンは、AI中枢が、ほんわかと温かくなっていることに気が付いた。
セブンがAI中枢に感じた温かさ、それが感情の萌芽なのかどうかは誰にも分からない。けれど彼らは、今日も前へ進んでいる。自分なりの理由を探しながら。
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新波出版では、想像力を刺激する作品づくりにこれからも取り組んでまいります。
酒井直行
愛媛県出身。脚本家(日本脚本家連盟員)、小説家、漫画原作者。
代表作に、ドラマ「嫌われ監察官 音無一六」「医療捜査官 財前一二三」「京都金沢殺人事件シリーズ」、特撮ドラマ「忍風戦隊ハリケンジャー」、アニメ「ドラえもん」、漫画「裁いてみましょ。」「Pハート」、ゲーム「ゼルダの伝説 ふしぎの木の実」「鬼武者」など。
新波出版では、AmazonkindleにてAmazon「事件記者〈報道癒着〉」Amazon「死への目撃者」を刊行。
※これからも不定期で、酒井直行作の「ショートショート小説」を発表していきます。お楽しみに!
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